2010年4月 奥熊野いだ天ウルトラマラソン 100km

奥熊野いだ天ウルトラマラソンに出走してきました。本当に楽しかった!

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毎年この時期は「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」に会社のラン仲間と出走していたのですが、一つには新しい大会に出てみたいこと(裏返せば、富士五湖ウルトラに飽きたこと)、それともう一つ、交流のあるウルトラランナー kakokiさんのHPにあったこの大会の完走レポートが大いにワタシの興味をひいてくれたこともあって、初めて奥熊野を走ることにしました。レポートを要約すると「どこを走っているのかわからない、とにかく不思議な大会」だそうで、そんな大会に一度出てみたいと思って走ったわけですが、走った後の感想は「kakokiさんの表現は全くもって適切」でした。

レース前日朝にマレーシア出張から関空に夜行便で帰国。機内ではやはりよく眠れず、実家に一度寄って出張荷物とマラソン荷物を交換、少し仮眠をしてから出発。和歌山から特急で遠路2時間半、風光明媚な路線で飽きることなく紀伊勝浦駅に到着。しかし駅周辺はほとんど人気がなく、閑散とした街中を徒歩で予約済みのビジネスホテルへ。電車ではなく関西から自家用車で来ている人が多いのかもしれません。疲れがピークに達しているので前夜祭には出ることなく、近所の銭湯に行っただけですぐに就寝。

大会当日は午前3時50分にホテルに迎えのバスが到着。そのままスタート地点の那智の滝前へ連れて行ってもらう。そういえば5年ほど前に那智の滝ツーリングで来たなぁ、と真っ暗ながらも景色を覚えていた。バスを降りると、さ、寒い。あと30分以上どうやって時間をつぶせばよいのか。途方に暮れているうちにランナーを乗せた後続のバスがどんどんやってきて現場が混み合う。詳しい説明がバス車内でなかったため、何をどうすればよいのか途方に暮れる。スタッフが懸命にいろんなことを言っているが騒然としておりよくわからない。そのうちどうやら以下のことが把握出来た。「とりあえず受付をすること」「ゴール地点に送る荷物は〇〇番のバスに預けること」「途中の着替え地点に送る荷物はトラックの荷台に乗せること」「現場が混んできたのでとにかく滝の前に移動すること、その際に事前に郵送された護摩木を持っていくこと」

総じてすごくいい大会だっただけに、スタート地点の混雑具合は残念だった。今後改善されることを望みます。

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とにかく寒いので本当はスタート直前まで厚着していたかったが「荷物を預けて石段を下りて滝の前に集合!」と言われたので意を決して上着を脱ぐ。「ただいまの気温は4℃です」そりゃ寒いはずだよ。おまけに日本一の滝から飛んでくるマイナスイオンが肌に染みる。皆さん「完走祈願」の護摩木をくべた火に群がって暖をとっている。早くスタートしたい!

スタート地点はどこかな?と思っていたらどうやらこの滝の目の前らしい。ということはまずこの石段を上って車道に戻るわけで、まさかそうは思っていないランナーが結構石段を上り始めていた。スタッフが慌てて「スタート地点はここです!」と叫んでいる。「一言事前に説明してくれればいいのに...」とここでも思った。

そしてやっとのことでスタート。足元が暗いうえに石段を上るため、とにかくゆっくり歩く。車道に出てからやっと走り始めたが、気付くといつのまにか最後尾にいた。100km走者数は事前連絡によれば190名くらい。もらった冊子を見るとほとんどが関西ランナーなので、渡されたゼッケンのコメント欄に「東京から来ました!」と書き込んだ。

この大会の特徴はいくらでも挙げられるが、特筆すべきはエイド数が多いこと!延べ31ヶ所。おそらく日本のウルトラマラソンの中で一番エイド数が多いと思う。コース上、2回訪れるエイドもあるが、とにかくエイドが多くて単純計算しても約3kmに1ヶ所ある豪華な設定。ちょっと走ったらすぐまたエイドなので携帯食や飲み物などまったくもって不要。スタッフが遠くから大声で呼んでくれるので、歩いていて急にエイドが現れるとビックリ&カッコ悪くて走らざるを得ない、という特典もある。

第1エイドの見晴台まで上ると眼下に広い太平洋が見渡せる、感動!海の見える山中を走るのは気持ちがいい。少しずつ自分のペースまで上げて走る、ランナーが少ないのである程度まで行くと周りがいなくなる。そのうち147番の方と二人でしばらく併走となる。聞けばウルトラ初参加、フルもまだ2回のみとのこと。それなのにこのペースで飄々と走っている。ツワモノなのかウルトラの洗礼をこれから受けるのか。第4エイドからは林道っぽい細い山道を下るがこれが結構長い。ここが複雑なコースのラストの上り坂になるとは、この時点ではまだ理解していなかった。完治していない足をくじかないよう慎重に下っていたら、すぐ頭上を大きな鳥が飛んでいった。見上げたらなんとフクロウだった、一瞬目が合った(気がした)。野生のフクロウなんて初めて見た、またまた感動!

天気は雲ひとつない快晴、気温は低めで走りやすい。山中の日陰はむしろ肌寒いくらい。第6エイドでやっと平地に下りる。ここで豆腐を頂いてまたいいペースで走り出す。順位は「ちょうど20位です」と言われる。あらま、いつのまにか前の方に来たようだ。147番さんと併走が続いたが後ろから79番:闘魂ランナーさんがやってくる。少しペースが速かったがおしゃべりしながらしばらく併走、聞けばサブ10ランナーで「今回はサブ9を狙っていたけど風邪をひいてしまいました」とのこと。いつのまにか147番さんが見えなくなって何度か振り返ったがその後会うことはなかった。第9エイドの着替え地点で皆さんピットインしたが自分はそのまま走り続ける。ここから2時間も近く100kmランナーと会わず。きれいな川沿いの道をひた走る。すこぶる気持ちいい。

とにかくエイドのメニューが豊富。水、コーラ、スポーツドリンク、飲み物すべてに氷が入っていた。オレンジ、バナナ、チョコレート、飴、イチゴ(美味しかった!)、梅干し、水羊羹、菓子パン、おにぎり、そうめん、豆腐、茶がゆ(地元名物)、味噌汁。3kmごとにいろいろ飲み食いしていたらすぐにお腹が膨れた。これじゃマラソンじゃなくて大食い大会だ...本当は遠慮したいところもあったがどのエイドでも皆さん熱心に勧めて下さるので前半は「来るもの拒まず」で食べ続けた。違う意味で苦しかった。

どのエイドでも結構おしゃべりして時間を費やしたが、第12エイドで「このあとは長い上りだよ」と言われ、茶がゆを頂いて少しのんびりさせてもらう。そして、確かにその上りは長かった。意地になって歩かずに走り通したが、な、長い!あぜ道のような細い道をひたすら上り、歩いているランナーを追い越す。ゼッケンを見ると75kmランナーが多い。頑張って20分ほど歩かずに走り続けたが「もうダメ...」と、このレースで初めての歩きを入れた途端にエイドに着いた。ここでも86歳になるというおばあさんから茶がゆを勧められたが「もう食べられません」と泣く泣くお断りさせて頂く。「おばあちゃん、走るの代わって!」とお願いしたが、周りの皆さんから「頑張れ!」と見送られてまた走り出す。ここで一気に消耗した。第15、16エイドでまた長い上りが続く。また歩いてしまう。上りのギアを前半戦で使い切ってしまったようだ、うーむ、まずい。やはり変に無理をすると後で応える。

とにかくこの奇々怪々なコースは分岐点が多い。たしか第17、18エイド周辺でコースアウトしかけたが、後ろから来たランナーに声を掛けてもらって助かった。ランナーの数は少ないし、分岐点には大きな看板がちゃんと設置されてはいるが、ぼーっとしているとすぐ道を間違えそうだ。そして第19エイドは第3エイドと同じ場所だった。「あれ?ただいま!」というかんじ。ここから第20エイド(=第12エイド)まで下って、前半の時計廻り部分を逆走していく。ここまで結構順調に来たが70kmを目前にして急に足にきた、一言でいえばバテた。

「参ったな」と第21エイドで座り込んでいたら「やっと追いついた」と闘魂ランナーさんがやって来る。しばらく併走させてもらうが、とてもじゃないけどついていけず先に行ってもらう。平坦な道にも関わらず、前半なかった向かい風が吹くとそれだけで走りが止まってしまう。そしてスピードが落ちると懸念していた眠気が襲ってくる。とにかく眠くて頭がぼーっとする。目覚ましにコーヒーを飲みたいが自販機も無いし、そもそも一文無しである。前後に人がいない孤独な状態が続く苦しい魔の時間帯。やっとのことで辿り着いた第22エイドで飲み物ガブ飲み。事前配布された冊子のワタシのコメントを見たスタッフの方から「絶対完走しますよね、だってそう書いてありますもん」と有難いお言葉を頂く。こちらは弱り切っており「完歩でもいいですかね...」と返すのがやっと。ノロノロ走り&歩きが続いたが、すでに1回走った場所なので気持ち的には少しだけ楽だった。各エイドでひたすら飲み物をガブ飲み、空腹感は無いので食べ物はパス。被り水は毎回しっかりかけて頂く。第25エイドで温かいお茶、コーラ、絞りたてのオレンジジュース2杯、スポーツドリンクを頂く。胃がやられる覚悟でガブ飲みしたが、オレンジジュースは目が覚めるほど美味しかった。

前を走る75kmランナーのゼッケン737番さんに追いついて話しかける。彼の背中のゼッケンコメント欄には「ボーイング」と書いてある。シャレを理解したうえで「飛行機のボーイングって737でしたっけ?747なら知ってるけど」と聞いたら「747もありますけど、ちゃんと737もあるんですよ」とのこと。「でも誰もこのコメントの意味を分かってくれません」、だろうねえ、ちょっと高尚でしょ。そういえば他にも面白いコメントのランナーが結構いた。追い抜くたびにコメントを見て、面白い場合はこちらから話しかけた。ゼッケン26番の人は「26才 ではありません」と書いていた。「嫁さん募集」と書いてある人もいた。ある女性は「くるしゅうない。追い抜いてよし」と書いていたので追い抜く際に「くるしゅうございませんか?」と尋ねたら笑っていた。このコメント欄のアイデアはとっても良かったと思う。

第27エイドでとうとう力尽きた。ガブ飲みしてパイプ椅子に座りこむ。眠い、ちょっとだけでいいから横になりたい。その間に100kmランナー3人くらいに抜かれる。悔しいけど歩いてたら追い抜かれるのはしょうがない。と、ふと脇を見るとベッドがある。「急患用かな?」と思ったらマッサージをしてくれるとのことで「どうせサブ10も自己ベストももう無理だから」と思って5分ほどマッサージをして頂く。幾分楽になった気がして再スタート。ここから最後の上りが延々と続くらしい。斜度はあまり無いので歩き走りをしていたら737番さんに追いついた。「頂上まであと4km」という親切な看板が嬉しい。ふと見ると前方コーナーに2名ほど立っている。「ゼッケンも付けてないし、こんなさびしいところで何だろう」と思っていたら応援のためにわざわざここまで登ってきた人たちだった。派手な鳴り物で応援してもらって本当に元気が出た。おかげで走って第29エイドに到着、ここで上りは完全に終了、後は下りだけらしい。「やった!」と叫ぶ。そして結構きつい下りをスピードを上げて下り始める。復活したのか、気持ちいいぞ!

このコース、だらだら上って、最後は一気に下る。そして平地からまっすぐゴールへ向かう。「奥武蔵ウルトラマラソン」のラストと酷似している。下りをかっ飛ばせたので先行ランナーを結構追い抜いた。「ファイトです!」と一人一人に声をかけたが、半数以上が反応なし。ラストとなる第31エイドで飲み物一口もらって5分/km(のつもり)で走る。と、前方に闘魂ランナーさんを発見、結構距離があったので追いつくかどうか微妙ながらも全速力で追う。「あと1km」地点直前で追い越した。「おぉ!」と驚かれたが、なんとスピードを上げて追いかけてくる。そしてラスト500mくらいで抜き返される。「は、速い!」そのまま差をつけられてゴールの補陀洛山寺へ。車道を左折すると狭い小道。ゴールテープはお参り風の格好をした美女2人が握っていた。

ゴールタイム:10時間17分5秒(総合15位)

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ゴール後は闘魂ランナーさんとしばし談笑。飲み物と食べ物を頂いてくつろいだ。ゴールしたランナーが一人ずつ演壇に上がってインタビューアーからマイクを借りて喋る。ワタシは「マラソンに来たと思ったら大食い大会でした!」とコメントした。その後、出走者は入浴無料となるJR那智駅隣接の温泉で汗を流し、これまた無料の送迎ワゴンで特急の停まるJR紀伊勝浦駅まで送って頂いた。

感想を申し上げれば、至れり尽くせりの気持ちのいい大会でした(最初はどうなることかと思いましたが)。

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自分の走りとしてはかなり悔いが残った。「意地をはらずに上りで歩いていれば」「各エイドであんなに長い時間止まっていなければ」もしかしたら大目標であるサブ10を達成していたかもしれない。しかし闘魂ランナーさんから「エイドに寄るからこそ、また走り出せるんですよ」と言われて思い直した。確かに今回は大会を楽しみに来たわけで、そういう意味ではスタッフの皆さんは誰もが非常に温かくもてなして下さり、心底楽しむことが出来た、その点では十分目標達成。闘魂ランナーさんよりもう一言「時間の貯金は体の借金。無理すればあとで必ずツケが回ってきます」という言葉も心に残った。理想としては大会を十分楽しみながらも、かつサブ10達成出来るくらいの実力をつけたいと思う。

とにかく素晴らしい大会でした。今まで出走したウルトラの大会の中でも一番かもしれません。開催場所はかなり遠いですが「また走りたい」と思わせてくれるものがありました。いつかまた必ず参加したいと思います。本当に有難うございました!