2011年9月 村岡ダブルフル100km

2010年のサロマ以来、1年3ケ月ぶりの100kmマラソン。日本に居たときは年に3回は走っていたウルトラ...今回は「村岡ダブルフル・ウルトラランニング」、前から一度出たかった大会。そのコースのキツさから「東の野辺山(八ヶ岳)、西の村岡」とウルトラ界では言われる。今回走ってわかったのは、野辺山なんか目じゃない、間違いなく村岡がトップクラスということ。「えちごくびき野」、「阿蘇カルデラ」もきつかったが、村岡の方が上。なんてったて平地がほとんどない。ここと比肩するのは伝説の「伊豆大島ウルトラ」くらいでしょう。

駐在地のマレーシアから一時帰国して東京で仕事。祝日に移動して、レース前日に京都でゼオン鉄人会の仲間と合流、山陰線にて最寄駅の「八鹿」駅へ。ここで今度はA田さんの車と合流、走ること40分くらいでやっと会場の兵庫県美方郡香美町村岡区に到着。どんだけ遠いの...

フレンドリーかつコンパクトな受付を終え、あとは明日に備えて寝るだけ。正直、久々の東京での仕事でバタバタしたり、遅くまで飲んだりと、寝不足で体調はかなりよろしくなかった、いつもいつものことだけど。

ホテルでは嬉しいことがあった。明晩と思っていたら但馬牛のすき焼きが夕食として出て来た。嬉しくてご飯を3杯食べた。その結果、苦しくてなかなか寝付けなかった。夜の空は星がとてもきれい、夕方からかなり冷え込んでおり、明日スタート時の気温は10℃くらいになるらしい...マレーシアとの気温差が25℃!

さて、レース当日。
午前3時前に起きて朝食。午前4時過ぎに車でスタート会場に移動。かなり寒くて外に立っていられない。それでもまだ9月、昼間は暑くなるはず。どういう格好で走るか悩む、気象と体調に合わせたウェアを選ぶこと、これもウルトラランナーに求められる能力の一つ。迷った挙句、半袖+手袋+アームウォーマーに決めた。ウインドブレーカーは止めた。途中で着替えはしない主義なので、ゴール(スタート同じ場所)受け取りですべての荷物を預ける。あとは体育館の中でスタート直前まで暖を取る。

午前5時直前にスタート地点に並ぶ。パンフレットによれば100kmエントリーは男子324名、女子41名。あとは88kmと44km走。この大会のメインは名前にもあるとおりあくまでも「ダルブルフル=88km」。今年で14回目となるこの大会だが、100kmが加えられたのは第5回から。それまではコースがきつすぎるので88kmが最長コースだったらしい。

真っ暗な中、午前5時にスタート。まわりのペースがかなり速い。いっつも思う。どうして今から100kmも走るのにこんなに最初から飛ばすのか?まずは体をあっためて徐々に調子を上げていけばいい。ほとんど最後尾を走る。ゼオン鉄人会のJKさんを見つけたので併走、おしゃべりしながら走る。JKさんは半袖の下に長袖、上にウインドブレーカーを羽織ってすでに暑そう...

町中を軽く周回、スタートに戻って別の周回、それを終えるといよいよ上りのコースへ。走れないほどの上りではない。10kmを通過する頃には明るくなってきた。この大会、ゼッケンに「なまえ」と「住所」を書く欄がある。僕は「しろう・マレーシア」と書いた。そう書けば「マレーシアから来たの!?」と話が盛り上がると思ったから。しかし結局走っている間にランナーから突っ込まれることはほとんどなかった...「外国」くらいにしておけばよかったか。ふと気付くとゼッケンに「誕生日」と書いているランナーがいる。「今日誕生日なんですか?」「そうなんですよ」「おめでとうございます、実は僕もなんですよ」「それはおめでとうございます!」と二人でバースデーランを祝う(家族には悪いけど)。

20kmくらいまでずっと緩やかな上り。涼しくてお腹が冷えたのか、シクシクお腹が痛む...腹痛に苦しんだウルトラ大会がよみがえる。「えちごくびき野」「サロマ湖」「雁坂140km」、筋肉痛よりも関節痛よりもある意味腹痛はきつい。というのも体に力がまったく入らないから。スタートからまだそんなに走っていないこともあり、トイレはかなり混んでいたが、何度か寄らざるを得なかった。今日はきつい日になりそう...とにかく固形分摂取を避け、脱水にならない程度に水分摂取を留めるしかない。この村岡、グルメウルトラとしても有名なのに早くも楽しみが一つ消えた。

20kmを越えて今度は下る、いっきに下る。エイドは3-4km置きにあり、私設エイドもあるので飲食には困らない。ゆえにいつもウルトラで背負っているドリンクは今回思い切って置いてきた。これは正解であった。上りきったところ、下りきったところにエイドがあるので分かりやすい。エイドにコース地図、高低図、現在地が毎度貼ってあるので自分がどこにいるのか、このあと上るのか下るのか、把握出来たのは非常に良かった。

30kmあたりから少しずつだが調子が出てくる。スタート地点で会ったランナーに声をかけたら「今からあれを登るんですよ」と遠くにそびえる山を指さす。村岡のハイライト「蘇武岳 1040m」、今から8kmでいっきに800mを駆け上る、ないしは「ひーこら」歩く。その高さにさすがに「マジすか...」とおののく。だってアレほんとに山じゃん!
上る前に40km地点までの往復路を走る、ここで往復を終えて戻ってきたゼオン鉄人会のA田さんとすれ違う。うへ、ずいぶん差がついた。緩い長い上りを走り、バテたら歩きを入れながらやっと折り返してきたら30分以上もかかった。早くもA田さんとそれだけ差がついてしまったということ。

いよいよメインの800m上りへ。これが走って上るのは絶対無理そうな傾斜。バイクや車でもちょっと無理なんじゃないか?と思われる坂で膝に手を当てながらえっちらおっちらと歩く。ちょっと平らなところがあれば数メートル走って、また歩く。その傾斜と長さに絶句...と、道端に花壇にあるような小さな看板が連続して置かれている。ゼッケン番号順にランナー一人一人にメッセージが書かれている。「初村岡を楽しんでね」「今日からあなたも村岡人」「村岡の自然を満喫してね」「蘇武岳に負けるな!」と、20-30種類くらいのメッセージがあったと思う。読んでるだけでも楽しい、気が紛れる。僕へのメッセージは「笑顔で完走間違いなし♡」(だったと記憶している)。後で知ったのだが、そのメッセージボードを引き抜いて手で持って走っているランナーが結構いた。もらってもいいらしい。ちなみに申し込み後に送られてきた要項にも地元小学生からのメッセージが入っていた。「えがおでゴールまで走って下さい。1位-10位までに入るようにがんばってください」とあった。福井わかなちゃん、兎塚小学校3年生。ゴメン、10位はおじさん無理だった。

50km地点を越えた頂上直前の展望台に大きなエイドが設置されており、そこからしばらく景色を眺めながらのんびりと休む。ずいぶん上ってきたな、と感動。天気は最高、みんな「暑い、暑い」と言っているが熱帯トレーニングを積んできた身とすれば全然気持ちいい。やはり圧倒的に湿度が低い。アームウォーマーも手袋もとっくにポケットに入れた。他のランナーさんとしばらくしゃべりながら歩く。下りになってからいよいよかっ飛びモード。
14kmで500m下る。自分でも驚くくらいのペースで飛ばした。次々と前を行くランナーを抜いていくのは気持ちがいいけど、このあとへばってまた追い抜かれたらカッコ悪いな、と思いながらも足が止まらないので、行けるところまで行っちゃえ!と気持ちよく走る。

60km地点手前のエイドに駆け込むと、「あれ?マレーシアから来たの」とやっと嬉しい突っ込みがおばさま達から入る。「そうです、マレーシアに住んでいるんです」「そのわりには日本語うまくない?」←いやー、待ってましたそのボケ。「日本人ですから!」。更に続けて「マレーシアから有名な村岡にやって来ました」と言うと、皆様大喜び。やっと会話が盛り上がりました。
と、そこに全身トラの格好をした見るからに阪神ファンっぽいおじさんランナーが。「なんや、あんたマレーシアからか?ワシは動物園からや!」と爆笑をよんでいました。

下りきってから今度はいっきにきつい上りコースへ。メリハリがあっていい。こんな上りはどうせ走れないので戦略的に歩く。歩くことで下りで使った足を休められるのがいい。
ここで鬼太郎の格好をして「一反もめん」の風船?を背負ったランナーさんと一緒になる。「それ、重いんですか?」「う、重い...っていうのはうそで全然重くありませんよ」「背負うのならやっぱり子泣き爺の方がよくありませんか?ないしはぬりかべとか?」「それ無理」。

200m近くいっきに上って、またまた下る。ここでは足が回復しておらず、さっきみたいに下りで飛ばせない。後ろから2人のランナーに抜かされた。よっぽど追いかけようかと思ったがまだ先も長いので足の動くペースを守る。70km通過、下りきって射添会館エイドへ。ずーっと飲み物ばかりでさすがに空腹感が、というかこのままではゴールまでもたない。コップで5杯くらいスポドリ、コーラ、水と飲んだあとに、素麺をいただいたがこれがめちゃくちゃ美味い!痛んでいる胃にも優しい!結局2杯も食べた。これでお腹が満ちた。「地獄で素麺」とはこのことである。欲を言えば刻みネギを入れて欲しかった。

このエイドではパイプ椅子に座って日陰でしばらくのんびり休ませてもらった。着替えもあるので賑わっているエイドだったが。見ているとさっと飲んでさっと出て行くせわしないランナーも結構いる。ウルトラの楽しみはエイドでの食事とおしゃべりなのに、最近の日本人はせわしないねぇ、と思いながら立ち上がると、足がすっかり固まっていた。

わかっちゃいるけどまた上り、そして大きなお寺が見えてきた、長楽寺だ。このお寺もコースの一部となっている。大きな構えの門をくぐり、入場料800円を免除していただき、但馬三大仏が鎮座する御堂の中を走る。さすがに気が引けるので帽子を脱いで走る。大仏様の背後を周り終えたところでおはぎエイド。しかし自分は何も食べられません、ということでそのままお茶だけ飲んで素通り。

寺を出てひた走る。さっきからもう周りにはほとんど100kmランナーが見当たらない。かわりに途中合流の44kmランナーに囲まれる。と、突然見えてきましたゼオン鉄人会の青いTシャツが、A田さんだ。結構お疲れのご様子。まさかここで追いつくとは。一声かけて先に行かせていただく。思えばこれまでみんなで何度も100km走ったけど、A田さんの前を走ったことって今まで1度もなかった。あとで追いつかれるかな?と思いながらも、まだ先は長いのでとりあえずマイペースで走る。上りは歩きと走りを交互に入れながら走る。不思議とまだ上りを走れるのは、奥武蔵のあと8月と9月、頑張ってマレーシアで練習したおかげか?

上り切ったピークが80km地点、いよいよあと20km。ここのエイドにはカレーライスがあった。44kmランナーが美味そうに食べている。しかし今の自分にはそんな重たいモノは絶対無理。泣く泣く果物だけつまんで走り出す。ここからの長い下りは足が戻ったのか、かっ飛びモード再び。自分でもよくこのペースで走って膝がもつな、と思うくらいパタパタと下っていけた。44kmの高校生ランナー(というか、彼ら歩いてたけど)を何十人も追い抜く。声をかけるのもどうかと思って、結局今回追い抜くときはまったく声をかけなかった。また町中に入ってきて、沿道から応援がかかる。ほとんどが椅子に座ったお年寄りか、小さなチビッ子。お年寄りには手を振り、チビッ子とはハイタッチ!本当に応援は有難い。と、突然平らな長い道に出る。ずっとアップダウンを走り続けてきた身にはかえってなんだか平地はきつい、思わず歩きが入ってしまう。だらだらと長い。早く上りになってくれればなんの躊躇もなく歩けるのに...その間に90km突破、残り10kmを切った。

やっと上り口が見えてきてほっとしていたところ、声をかけられた。Mさん(A田さんご婦人)だ。44kmに出ているとは聞いていたがここで会うとは。上りを一緒に歩くも「旦那様と一緒にゴールしたい」とのことで先に行かせていただく。200m上り切ったところが95km地点。エイドが見えてきた。ドリンクだけ取って飛び出すも、ふと気になって引き返す。「ここって最後のエイドですか?」「そうですよ、だからもっとゆっくりしていって下さい」と言われ、もう1杯ドリンクをいただいて挨拶をして出る。

時計を見ると11時間8分。あと4kmを20分超で走り切れば11時間半を切れる。下りだし4kmくらいならいけるか、とラストのかっ飛びモード。1kmごとの表示を横目に見ながら思いっきり走る。行けそうだ、あと2km、あと1km。前を行く100kmランナーを追い越す際に「ファイトです」と声をかけて、ある意味自分に気合を入れ直して走った。

ゴールタイム:11時間28分28秒

あとで見たら総合で41位だった。予想よりも全然良い。タイムや順位はなにより、最後まで無事に楽しく走ることが出来たのが嬉しかった。天候もよく、コースもきついとはいえ上りと下りがはっきりしていて精神的にめげるような嫌らしいコースではなかった。エイドも(過度に期待していたほどではなかったが)良かった、もっともほとんど食べられなかったけど。自然が素晴らしかった。人工の音がまったくしないところで、山中コースのわりには視界が開けた箇所も多く、日陰に入れば風は冷たく心地よく、思いがけず「走る喜び」を味わえた。14回もやっているだけあって大会運営もきっちりしていました。ただし会場からの大阪行きバスは手際悪くて大変でしたが、それは事務局ではなくバス会社のせいでしょう。

これまで国内10箇所以上のウルトラ大会に参加してきましたが、100kmに限っていえば、この村岡は今までの個人的にベストだった奥熊野(和歌山)に匹敵するか、それ以上かもしれません。雰囲気もとても似ています。奥熊野はスタート会場の運営がバタバタしていましたが村岡はしっかりしていました。でも今年の村岡に限るなら(過去は知らないので)、エイドは奥熊野の方が上だと思います。

ということで、とても素晴らしい大会に出会えましたし、天気も良く存分に楽しむことが出来ました。村岡、またいつか出てみたいと思いますが、9月には秋田ウルトラ(未出走)や雁坂峠140kmもあるので、次回は未定ですね。というかそれもすべて帰国してからの話ですが。

やっぱり美しい日本を走るのはサイコーです!

10kmの手元ラップは以下。

10km 01:08:26
20km 02:23:02 (01:14:36)←トイレ
30km 03:19:53 (00:56:50)
40km 04:22:12 (01:02:19)
50km 05:43:26 (01:21:14)←蘇武岳のぼり
60km 06:55:46 (01:12:19)
70km 08:00:59 (01:05:13)
80km 09:19:53 (01:18:53)
90km 10:16:36 (00:56:42)←ここでベストラップ
100km 11:28:28 (01:11:52)