2012年9月 北緯40°秋田内陸リゾートカップ 100キロチャレンジマラソン大会 当日

さて、レース当日。

宿が一緒だった地元ランナーのM橋さんと一緒にバスに乗り込み、会場で一緒にスタートを待つ。M橋さんはすでにクリスタルランナー(秋田チャレンジを10回以上完走)で、大会のすべてに精通しているため、お陰様で会場内で良い場所を選んでゆっくり準備することが出来た。スタート直前に荷物を預けてゲートへ。外は意外に暖かい、15℃以上あったと思う。天気予報で「日中は28℃まで気温が上がる。晴れのち曇りまたは雨」とのことで、ランシャツにアームウォーマーというスタイルに決定。前日の受付時に防寒用のビニール袋をもらっており(おまけに頭と腕の部分をその場でハサミで切ってくれるという親切さ)、それを被る。レース前でも雰囲気は緩く、一応一番前がクリスタルランナー専用なのだが、ほとんど関係なくスタート前方に並ぶことが出来た。フルと違ってせかせかしていなくてよい。

有難いことにやかましいマイクパフォーマンスもなく、静かにスタート時間の午前4時半を迎える。M橋さんから「最初左に曲がって次に右に曲がって...」とコースを教えていただく。後続ランナーにどんどん追い抜かれるが「気にしないで行きましょう」と言われ、一緒に6分/kmペースを維持する。昨晩伺った限りでは「目標は10時間半」と、自分と同じなのでM橋さんについていけば大丈夫だろう。ただし「毎月の走行距離は300km。数年前にサブ10達成」というシリアスランナーなので、はたしてどこまでついていけるか...
まだ真っ暗な角館の武家屋敷を通り過ぎ、ちょっと行ったところでM橋さんから「左の歩道沿いを走ってみましょう」と言われてそちらに寄ると、早朝から小学生の大応援!大勢とタッチを交わすことが出来た。「元気もらえるでしょう」「ありがとうございます」とお気遣いに感謝する。
走りながら話を聞いていると、M橋さんと私は共通点が多いことが分かった。トイレがかなり近いこと、股ずれしやすいこと、ランニングキャップを前後さかさまに被ること、前半抑え気味で後半崩れずイーブンペースを心がけていること、などなど。
途中、お互いトイレに寄っては抜きつ抜かれつを繰り返しつつ、目に見える範囲の距離を保って走る。
暖かくなってきたのでビニールを脱いで丸めて握ったまま走っていたら、沿道の方から「どうぞビニールはこちらに!」と引き取っていただく。道端に捨てるのもなんだな、と思っていたのでこの気遣いは嬉しかった。地元サポーターの意識の高さが感じられました。
M橋さんのお話では、この大会、一時資金難から中止の話も出たそうで、事務局からランナーに「参加費用が幾らまでなら出てもよいですか?」とアンケートがあったそうです。M橋さんは「倍まで=3万円くらい」と答えたそうです。さすが地元愛! ちなみにそのような話があった際には全国の大会ファンから寄付金が集まったそうです。国体と重なって中止になった年もコアランナーが集まってボランティアで100kmを走り切ったとか。聞いていると本当に皆さんに愛されている大会なんだな、としみじみ思いました。

この秋田のコースは40km地点で少しきつい上りがあるものの、あとは目立った乱高下もなく非常に走りやすい、というのが事前に抱いていた印象で、果たしてそのとおりでした。だからこそ制限時間が13時間、と他のウルトラよりも短めの設定。自分の本日の目標は「サブ10.5か11、かつ歩かないこと」、ペースは6分/kmよりちょっと遅いくらいなので無理せず上りも走り通すことが出来た。もう一つの特徴としては、左折右折がとても少ないこと。通常ウルトラのコースは距離を稼ぐために曲がりくねっていることが多いけど(特に記憶にあるのは「えちごくびき野」)、ここは基本的にひたすら一本道を北上するわかりやすいコース。長い目で見ると、この曲がり角が少ないことはランナーにとって走りやすくてありがたい。ただしメイン道路を走るため交通量は多い。結構なスピードで後ろから車が追い抜いて行くのが正直怖い。こちらも疲れてくるとよけられないのでもう車まかせ。「なるべく歩道を走って下さい」と係員に言われるも、歩道が荒れていて走りづらいのが難点。
このコースの一番の難所を歩くことなく超えると、今度は何kmも続く下り。ここを少しずつ加速して下っていく。どんどん前のランナーをかわしていくが、ちょっと飛ばし過ぎかも、と思うくらい順調に走る。実は「ここでタイムを稼げたら案外サブ10が見えてくるのかも」と安易なカケに出たわけだが、世の中そんなに甘くないことを後で思い知る。
下りが苦手というM橋さんを置いて先に行くも、下り切ったあたりで早くも疲れてきた。一つには、最近ずっと悩まされている左肩痛。走ると左肩がものすごく痛くなる、ちょっとつったような状況。走りながらストレッチを繰り返すがどうにも痛みがひかない。ランシャツが合わないわけではないだろうから、やはり走るフォームが悪いのか...痛みが気になって気持ちよく走れない。それと、今回履いたシューズがかなり古くて(もう1年以上履いている、昨年の村岡でも履いた靴)ソールがすり減っているせいか、かなり膝にダメージがきた。しかし何よりも堪えたのは強烈な眠気の襲来。言い訳すると、一昨日の真夜中に帰国して、昨晩もろくに寝ていないから、それが影響しなければいいな、と思っていたのだが若くもないし、そんなわけにはいかなかった。途中のエイドでホットコーヒー、キャンディなど頂く。もっと何か食べれば目が覚めて元気が出るかもしれないが、こちらは昨晩から膨満感に苛まれており、レース当日は午前3時に朝食を無理やり押し込んで、走っている最中も空腹感ゼロ。50kmあたりまで固形分やエネルギー物を受け入れられない状態が続いた。これも失敗の一因。もう何回もウルトラに出ているのに、事前の調整(というか、自己抑制コントロール)はいまだに難しい。

エイドがだいたい5kmおきにあるのが有難い。更に各エイド間に水被り場所があるので渇くおそれはない。ゆえに今回はポーチを持たずに走った。エイドのメニューはほぼ決まっており、水、スポドリ、オニギリ(お寿司サイズ)、菓子パン、漬物(これはたくさん頂いた)、オレンジ、レモン、バナナ、梅干し、その他お菓子などなど。豪華メニューというわけではなかったけど、ウルトラのエイドとしては十分、後半にはコーラも登場してくれました。
そしてなによりも一番気に入ったのは、濡れタオルのサービス。エイドによると「ハイ、どうぞ」と気持ちよく冷えている濡れタオルを渡してくれる。これはもうサイコー!念入りに顔を拭いた後、思わず「とりあえずビール!」と言ったら笑われた。後半のエイドにはほとんど濡れタオルが完備されていたはず。個人的にはどのウルトラの大会のサービスよりも素晴らしい!と感動しました(あとで聞いた話では、しまなみマラニックでも濡れタオルサービスがあるそうです。全国の大会にて導入希望!)。

ゼッケンは2枚で前後につける。スペースがあるので各ランナーは出身地や自分の名前を書き込んでいる。それを見ているとこの秋田チャレンジ、いかに地元ランナーが多いかが分かる。そしてそのランナーが自分と同じペースで走っているわけだから、他のウルトラにも結構出ているツワモノの方々なのかと思いきや、聞けば皆さんが「いえ、ウルトラは秋田しか走ったことがありません」とおっしゃる。ちなみにM橋さんも同様でした。なのに皆速い!女性ランナーにも結構淡々と追い抜かれていく...秋田ってもしかして隠れたマラソン王国なのか...?
で、自分は昨年の村岡のときはゼッケンに「マレーシア」と書いて皆さんの興味を少しひいたのですが、今年は「海外」と思わせぶりな書き方をしてみました。エイドにて「あらぁ、海外のどこなの?」と聞かれて、「マレーシアからです!」「日本語お上手ねぇ、日本に何年居るの? 」「Welcome to Japan、Glad to see you でいいのかしら?」と何回か真面目に話しかけられました。なので、レース後半からは「マレーシアからです。でも私は日本人です」と言うと、私設エイドのおばあさんから「いや、あんたはむしろ台湾人に見える!」と有難いお言葉を賜りました。もうなんでもいいです。
一番気の利いたセリフは、あるエイドの女性が私のゼッケンを見て、「あらぁ、お名前が『海外』さんっておっしゃるの?」と言われたこと。「だっていまどき結構変わってるお名前の方が多いでしょう」とのこと。まさか苗字が「海外」とは、その柔軟な発想に脱帽!

前半に侍の格好をしたランナーと一緒になる。通りすがりに沿道から「殿、頑張って!」と声がかかるが、実は後ろから見ると背中に「お主も悪よの~」と書いてある。要は、殿ではなく悪代官様なのである。この方、結構いろいろなウルトラの大会で見かけたことがあるので話しかけてみると、「先週の東尋坊ウルトラは35kmでリタイアしたので、今日は自重気味にいきます。来週は村岡100km、その翌週はえちごくびき野100kmです」と、ウルトラ4連続の超ツワモノでした。「今年の3月は、ウルトラだけで200km、100km、100km、トータル400km走りました」いや、悪代官様、参りました。更に曰く「前の方にレッドデビルやミニーマウスの格好をしたコスプレ兄弟がいます」とのこと。ウルトラで仮装ってかなりの勇気と実力が無いと出来ないのにすごい。
それにしてもこの秋田チャレンジ、沿道の応援が途切れません。東京マラソンのように鈴なり、というわけでは勿論ありませんが、ポツンポツンと車が停まっており、そこから「頑張って!」と声がかかるので、一人きりになるということがありません。結構、出場者リストを持っている方が多く、こちらのゼッケンを見て「○○さん、頑張って!」と名前を呼んでくれるのが嬉しい。が、私の苗字はちと読みづらいのだろうか、応援してくれる人と目は合うのだが、「...頑張って!」と、名前を呼んでもらえないことがよくある。こういうときは鈴木とか田中という苗字が羨ましくなる。ただし、女性は結構下の名前で呼んでくれました。
街中に入るたびに応援の拍手がすごいので、こちらも負けずに拍手しながら走る。養護施設の車椅子で応援のご老人の前を「ハイ、どうも!皆さん、こんにちは!」と漫才の入りのように拍手しながら走ったら「エライ馬力だ、まだ行ける!」と褒めてもらいました。

距離表示が5kmごとにきちんとあるのがまた有難い。60kmあたりでM橋さんに追いつかれて今度は後ろを走る。エイドで追いついたり離れたりを繰り返すも、M橋さんは地元出身なのでそこら中から声がかかる。「あら、○○(M橋さんの下の名前)でねぇの。ぐわんばって!」とか、「ちょっとこっちさ寄ってけ。これ飲んでけ」と、なんだかんだで有難い妨害を受けているうちに追いつく。
65km地点あたりでぐっと上った坂の頂上で「北緯40度」の記念ゲートをくぐる。北緯40度はたしかスペインのマドリッドあたりと同じ、と中学地理で習った記憶がある。
しかし段々お腹が痛くなってきて、すでに一回行っているのに、またトイレに寄らざるを得ない状況になる。食べ物とらずドリンクだけガブ飲みしてきたのが、とうとうお腹にきた...
76.8km地点のエイドでトイレに行って時間を要す。ここでM橋さんにおいていかれる。どっと疲れがきてパイプ椅子に座りこむ。「まずいな、こりゃ」と思うが体が動かない。最近20km以上の長い距離を走る練習をまったくしていないこと、寝不足、例のとおりの体重オーバー、でこのあたりが一つの限界なのかもしれない。こりゃサブ10.5もあかんな、と目標をサブ11に切り替える。ここまでずっとエイドに長居をしなかったが、初めて10分くらい休憩した。
天気予報によれば最高気温28℃まで上がる、とのことだったがところどころにある温度表示を見ると17℃くらい。曇りで適度な風があり、暑くもなく寒くもない。例年雨が多い、もっと寒い、と言われていた秋田チャレンジだが、今年はウルトラを走るには絶好のコンディション、気候的には言い訳できない条件に恵まれた。

意を決してエイドを出るも、どうにも足が上がらず後ろから来るランナーに抜かれていく。ここまで走り通したのだから今さら妥協して歩くのはイヤだ。今こそ作戦A発動!ということで、自分より速いランナーに無理してついていく。すると走り方が変わるのでしばらく使っていなかった筋肉に刺激が入り(単なる持論か思い込み)、案外走り続けることが出来る。一人では無理だが前に引っ張ってくれる人がいると出来るこの作戦で距離を稼いだ。エネルギー補充のために、食欲はなかったけどオニギリを温かいお茶で流し込み、パンを紅茶で流し込む。80kmを過ぎて、85kmを過ぎると気分はもうカウントダウン状態。ひたすら単調な田舎道をとにかく何も考えずに、というか脳に血液がいかないせいだろう、もともと走っている最中はほとんど何も考えられない。ひたすらテコテコ行く。ペースは6.5分/kmくらいか。
90kmになったところで、その次は「あと9km」の表示が出る。そこからまたちょっときつい上りがあると聞いていたが、どれだかわからないままに空港の真下のトンネルに入る。これが長い、何百メートルもありそうだ。やっとこさ地上に出たところで、あと4.6km表示。残る公設エイドもあと一つだけ、20ヶ所目。

96.5km地点、最後のエイドでまたぐったりと椅子に座り込む。「あとは歩いても30分くらいだよ!」と言われ、「じゃあ、今の状態で走ったら40分くらいかかるかも」と返したら笑われた。結局今回はセカンドエンジンに点火することなく終始ペースは上がらなかったが、最後の区間くらいは頑張ろうと思いっ切り走る。前にいるランナーを抜いて、やっと追いつきました、レッドデビル。真っ赤な悪魔のコスチュームで、ミニスカに網タイツ、頭にはツノ、右手には悪魔が持ってそうな三叉のヤリ、もちろんランナーは男性。後ろから見ているとなかなか面白くて、沿道から応援がかかるたびに投げキッスを返すので沿道は大盛り上がり。おまけに通りすがりに自分でスカートをペロっとめくっていく。チビッ子の応援には「将来こんなおじさんになっちゃダメだよ」と頭をなでていく。
こちらが追いつく気配を感じたのか、「どうぞ、先行っちゃって下さい。こんなランナーの後ろ走るのイヤでしょ?(笑)」と親切な悪魔に道を譲って頂く。

鷹巣の街中に入ると商店街から「ゼッケン○○番の××さんです」と放送が入る。どこかでゼッケンをチェックしていて、それが放送席に伝わるのだろう。現金なもので今更になってスピードが出る。商店街を一気に駆け抜け、最後の直線に入る。ゴールはどこだ? 噂の大太鼓(本当に大きい!)の横を走り抜け、左折したところがゴール。

ゴールタイムは10時間45分くらい。最後まで歩かずに走り通せたのが嬉しい。

サポーターに付き添われてゼッケンのシールを剥がしてもらい(それがゴールの証跡になる)、木製の完走証をいただき、アイシングが出来るビニールプールに連れて行ってもらう。ここでも冷たい濡れタオルに飲み物、足ふきタオルなど、至れり尽くせりのサービスを受ける。並んでいたので諦めたがマッサージも無料で受けられる。さすが、秋田チャレンジが人気の大会である理由がよーくわかりました。

アイシングが終わったところで先にゴールしているM橋さんを探したけど見つけられなかった。ゴール地点に奥様が迎えにきてくれて、そのまま車で帰るとおっしゃっていたからゴール直後にすぐ帰ってしまったのだろうか。せめて御礼が言いたかったのですが残念、心残り...
荷物を引き取って銭湯に行こうと思ったが、後夜祭をやっているのでちょっと顔を出してみたらM井さんに会って少しお話した。なんと生ビールが飲み放題、そばや豚汁(だったか?)も無料で頂けるが、こちらは胃袋が死んでいるので何も受け付けず、食べられず。
そのあと無料送迎で銭湯に行くも大混雑なので諦めて、そのままJRの駅まで送ってもらい、そこでタクシーを拾って空港に向かった。フライトまでの時間は十分で、TVで日馬富士 vs 白鵬の取り組みを見る余裕がありました。そしてANAであっという間に羽田に到着。さっきまで秋田の田舎道をえっちらおっちら走っていたとは信じられない、不思議な1泊2日、秋田への旅でした。

以下が10kmごとのLap
10km:01:03:18
20km:01:02:54
30km:01:02:22
40km:01:02:46
50km:00:56:18 ⇒ ここで飛ばし過ぎた...
60km:01:04:50
70km:01:04:48
80km:01:13:38 ⇒ ここでかなり休んだ
90km:01:03:52
100km:01:10:54 ⇒ ゴールしてしばらくストップ押すの忘れていた...
合計:10:45:45

秋田チャレンジの良かった点。
・応援が途切れず、どこかで誰かが必ず声をかけてくれること。
・公設エイドが20ヶ所、更に各エイド間に水かぶり場所が設置されており、サポート体制が充実していること。
・コースのアップダウンや曲がり角が少ないため、非常に走りやすいこと。
・ゴール後のケアがものすごく充実している。アイシング、マッサージ、タオルサービス、迅速な預け荷物の返却、銭湯への無償送迎、生ビール飲み放題、などなど。

残念な点。
・車道沿いのコースなので後ろから来る車が怖い。歩道が荒れていて走りづらい。
・スタートとゴール地点の宿泊が少ない。

また来るか?と聞かれたら、「是非に!」と答えるでしょう。それくらい好印象の大会でした。だてに22回も開催していない、ファンの多い大会であることが分かりました。
東京からの交通の便は決して良いとは言えませんが、こまちとANAで乗り換えなしで行き来できるから、金銭的余裕さえあれば問題ないかもしれません。

次回は数年後かな、知り合いと一緒に、ゆっくり来たいですね。
関係者の皆様、ありがとうございました。お蔭様で十二分に楽しめました。