2015年8月 立山登山マラニック 60km

念願の立山マラニック、海抜0mから高度3000m超を目指す夢は残念ながら室堂(2450m)にてついえました。

前日に大阪からバスで富山入り。富山県に来たのはよくよく調べてみると6年ぶり。入社して最初の2年間を工場で過ごした懐かしい場所。独身寮の窓から毎朝立山が見えていた。冬になれば立山スキー場によく行った。不真面目にも平日の午後3時くらいに会社早退して行ったなぁ、と昔のことを思い出すのは楽しい。
富山駅はすっかりモダン(死語?)な駅に生まれ変わっていた。駅周辺はごちゃごちゃしておらず、感じの良い地方都市。駅ビル内で早い夕食を済ませ、ホテルの隣にあるマッサージ屋で少し体をほぐしてもらって午後7時過ぎに就寝。今日の天気は晴れときどき曇り。明日の天気もいけるんじゃないか。

さて当日午前1時半起床、2時半に宿泊しているホテルからスタート地点に向けてバスが出る。天気は雨...確かに予報は前線停滞により雨、となっていたが昨日は晴れていたし、自分は晴れ男なのでいけるんじゃないかと思っていただけにちょっとショック。
とりあえず称名エイドと室堂エイド行きの荷物をそれぞれ預け、500円を支払ってバスに乗り込む。30分くらいで到着したスタート地点:浜黒崎海岸では更に雨脚が強くなっていた。キャンプ場施設の屋根の下で他のランナー達とひたすら雨が止むことを祈りながらスタートの午前4時を待つ。

本日の装備は、North Face Marting Wing 10Lバックにペットボトル2本(うち1本は空)、スポーツ羊羹2本、ショッツ2本(初めて買ってみた)、カロリーメイトもどき1箱、塩飴、ポケットティッシュ、携帯トイレ(必携品リストに入っていたが結局荷物チェックはなかった)、小銭、デジカメ、点滅ライト。身に着けたものは、ヘッドライト、モンベルウインドジャケット、帽子、半袖、短パン、普通のランシュー、セイコーGPSウォッチ。
他のランナーの装備を見ても皆さん荷物は少なめ。ウェストポーチのみの方も結構見かけた。走ってみて分かったけれど、少なくとも称名エイドまではウェストポーチだけでいけるし、天気が良ければ室堂までもそれでいけると思う。

スタート直前にキャンプ場から海岸に移動するようコールがかかり、結構強い雨の中を歩いて移動。どうせスタートすれば濡れるのだけれど、心理的にせめて走るまでは濡れたくない。海岸でまず海面にタッチするように言われ、「さぁ、海抜0メートルからのスタートです」とレースが始まる。マラニックの参加者は200人弱、点滅ライトをバックにつけようともたもたしていたらいきなりビリになり、慌てて集団を追いかける。こんなところではぐれたらまったく道が分からないのでまずい。

コースはまずひたすら常願寺川沿いを遡上、足場はあぜ道で石ころと水溜まりが多くて走りづらい。これが延々と10km近く続いてめげる。まだ足元が暗いのでヘッドランプで照らす。雨は...やまない。それなのにところどころ係員の方や応援の方が傘を差して立ってくれていたのは嬉しかった。

10km地点の大日橋エイド到着、タイムは1時間2分。雨なので余計なこともせず淡々と走る。「なんでこんなことやってるんだろう」という思考回路のスイッチを切ってマシンと化す。まわりが明るくなってきて雨もやんできた(ような気がした)。晴れていれば遠くに立山が見えるはずだけれどなんにも見えない、本当に残念。暑くなってきたのでウインドジャケットを脱いだらほどなくまた雨が降ってきた。今日一日こんなかんじが続くのか? 晴れ男の神通力を発揮したい!

21km地点の岩峅寺雄山神社到着、タイムが2時間15分。また雨が強くなってきた。梨、バナナ、パンなどあるが寒いしまだ朝も早いので空腹感はない。パンを一かけらだけつまんで走り出す。雨の中、エイドでサポートしてくれるボランティアの皆さんにはただただ頭が下がりました。

30km地点のかすみ橋詰エイド到着、タイムが3時間9分。雨の中をひたすら走る。体が濡れていることは確かに不快だけれど、快晴時と違って暑くないため疲労感はない。前を行くランナーを一人ずつ拾っていく。途中立山大橋を渡るが霧のせいで橋の向こう側が見えない、ちょっと幻想的な風景。橋を渡ったらどこか別世界に行ってしまいそうな気分になった。

38km地点の立山駅エイド到着、タイムが4時間2分(制限時間:6時間)。ここまではほんの序の口、ウォーミングアップ。これからが登山マラニックの始まり。ここ標高500mからあと25kmで2500mを登る、うーむ、ワクワクするじゃないですか。

「パンを一口だけ食べたい」とお願いしたら一つまるごと頂いてしまう。「開封して置いても濡れるだけなので、一つまるごと持って行って欲しい、食べられないなら捨てて下さい」と言われる。なんだか勿体ない。

ここから雨がやんだり降ったりの繰り返しとなり、そのたびに雨具を着たり脱いだり、と忙しくなる。雨にたっぷりと濡れたジャケットが素肌に張り付いて本当に着脱しづらい。確かにここからは坂が急になり、今まで歩かなかったのに戦略的歩行を入れざるをえない。うつむくとランニングキャップのつばから水が滴り落ちるいい男になった。

46km地点の称名エイド到着(制限時間:6時間30分)、タイムが5時間3分。ちょうど雨もあがってくれていいかんじ。そうめんを頂いて腹ごしらえ。このレースで初めてしっかりと食べた。預けてあった手荷物から防寒具を取り出してバックに詰め込む。要らないかも、と思ったけれど念のため。後から分かるのだがここで防寒具を持ったのは本当に正解だった。係員の防寒具チェック(と言っても持っているかを聞かれるだけだが)を受けてから前進。と、目の前に大きな滝が!これが落差日本一の称名滝か、と写真をバシバシ撮る。後でわかったのだけれどこれは称名滝とは違う滝であった。でも、美しかった。

橋を渡って難所の一つ「八郎坂」に取り掛かる。今まではあぜ道や舗装路だったけれど、ここから本格的な登山が始まる。快調に登って前のランナーに道を譲って頂く。立山駅スタートのウォーキング部門の方もいた。とにかく斜面が急で泥で濡れた岩が滑る滑る。本来であればしっかりしたソウルのトレランシューズなどにすべきだった。しかし自分は逆の発想で「今回のレースでシューズがたっぷり汚れて寿命を迎えるだろう」と考えていたため、ソウルがツルツルの履き古したランシューで来ていた。ちょっと甘くみていたかも。
山道の途中に一人で立っている人がいる。よく見たら私設エイドを開いてくれていた。こんな狭いところでご苦労様です。
快調に登っていた油断があったのか、左足で草むらを踏んだところ、その下に土がなく大きく踏み外してバランスを崩し、右足ひざを岩にしこたまぶつけてしまった。あまりの痛みにしばし声を出さずに絶叫!パックリ切れたのか出血。しばらくの間、右ひざをかばいながらびっこ状態で歩く。

文字通り痛い目に遭った難所:八郎坂をなんとか突破、舗装路に出た。随分登ってきたのか景色が変わって高原ぽくなっている。

50km地点の弘法エイド到着、タイムが6時間38分。こんにゃくゼリーなのか、今まで見たことないほどの数が箱に入っている。人工の物音がまったくしないぜいたくなエイド。静寂の世界をしばし楽しむ。

弘法エイドを出発して今度は車道から外れてお花畑内の木道に入っていく。晴れていたらとても気分の良い散歩道なのだろうが、まったくもって視界不良。おまけに木道が斜めにかしいでいる部分が多く、うまく走れない。転んでコースアウトでもしたら大けがしそうなため慎重に進む。

ここで木道脇のテーブルでお茶しているウォーキング部門の方々に会う。ゴールはマラニックの我々と同じ雄山山頂(3003m)で制限時間(午後3時)も同じはず。何気なく「お茶してて山頂まで間に合いますか?」と話しかけたところ、「このとおり天候不良なので今日のレースは雄山まで登らず、室堂がゴールになったそうですよ」と告げられる。ガ~ン、ここで聞きたくなかった、その情報。ここまでは山頂登る気満々だったのに、その夢と希望が見事打ち砕かれた。やっぱりそうか、そうなのか... 座り込んでしまったワタシを見てウォーキング部門の方が「あれ、悪いこと言っちゃったかな、言わない方が良かったかな?」とうろたえていた。
ここで気持ちが切れてしまい、残りの木道をほとんど歩いてしまう。木道が十字路に分かれているポイントを左折、また車道に出る。

53km地点の弥陀ヶ原エイド到着、タイムが7時間10分。ここで係員にあらためて言われる。「本日天候不良のため、残念ながらゴールを雄山から室堂に変更させて頂きます」。ただただ黙って聞いた。どうせあと7kmで終わりなんだから、と考えてこれまでお腹のためにセーブしていた梨とキュウリを複数頂く。山頂まで行けない喪失感を抱えながらよろよろとエイドを出る。

残り5kmを切ったあたりから猛烈な突風と氷雨に襲われる。さ、寒い。延々と続く坂道を結構歩いてしまったが、自分でもこれはエネルギー切れとわかっている。でもあと数kmで貴重なスポーツ羊羹を食べる気もしなかった。しかし、これだけ寒いとさっさとゴールしなくてはならない。羊羹を頬張って走り出す。もう体中ぐしょぐしょで一気に体温が下がっていくのが分かる。距離も高度も正確なGPSウォッチによればあと2km。もう寒すぎて我慢出来ない、大雨の中、ザックから防寒具を出してなんとか羽織る。本当は持参した着替えが少ないので濡らしたくなかったのだが、このままでは危ないと判断した。防寒具を羽織ってからは歩かずに一気にゴールを目指す。
きつい上り坂だけれど、ものすごい突風が追い風となって一気に坂を駆け上ってしまう。ラッキーだけれども逆だったら本当に悲惨だったと思う。
ほとんど視界が無い中、ふと横を見ると雪渓がある。思わず立ち止って写真を撮る。こんな天気の中、誰かが道路脇に立っている。「あと200mでゴールですよ!」と声をかけてくれるが、そのゴールがまったく見えない。と、左側に駐車場らしきものが見えてきた。ゴールゲートも見えた!

60km地点の室堂(制限時間:9時間30分)、急きょ変更になった本日のゴール着が8時間14分。何度かガッツポーズを繰り返す。めちゃくちゃ寒いので室堂預かりの荷物を受け取ってすぐに待機バス内へ。しかしバス内はすでに満席。座る場所もなく、結局ひたすら30分ほど通路に立ったまま次のバスを待った。全身が濡れており寒くて震えが止まらない。着替えればよいのだけれど、ここで着替えても自分はこのあと今夜の宿泊場所の雷鳥荘まで雨中2km歩かなくてはいけない。その間に着替えが濡れてしまうと、今度は雷鳥荘で着る服がなくなってしまう。

結局2台目のバスが称名エイドでの荷物を持ってくるのを待ち、所有物がそろったところで室堂バスターミナルに移動。ほとんどのランナーがバスで富山方面に帰る中、少数のランナーの皆さんと一緒に雷鳥荘を目指した。もう着替えが濡れる、などと出し惜しみしている余裕は無く、とりあえず着込めるだけ着込んで折り畳み傘を差して歩き出した。ひどい風と霧で景色はまったく見えず、傘ごと吹き飛ばされそうになりながらなんとか雷鳥荘に到着、ただただ嬉しかった。6人相部屋で一緒になった皆さんと風呂に浸かってレース談義を楽しむ。やっと生き返った。濡れた服は乾燥室で乾かすことが出来た。雷鳥荘は山小屋というよりは旅館のようで申し分なく快適でした。

翌日、昨日よりはマシな天気だけれどやはり雨が降っており、自分は軽装(スポーツバッグで来ていたのは自分くらいだった)のため雄山登山は来年以降に持ち越し。諦めておとなしく帰路につきました。

長年の夢であった立山マラニックの初戦、この夏のトレーニングの成果が少しは出たような気がしたけれど、雄山山頂まで行けなかった喪失感が大き過ぎてレースを楽しんだとは言えず。
来年かいつか、この喪失感を埋めることが出来るまで出走し続けることになりそう。